開発者が「標準APIを使わない」理由
原題: Why don't more developers “use the platform”?
なぜ重要か
標準APIの普及度はWeb全体のパフォーマンスとセキュリティに直結するため、開発者心理の把握は標準化団体やブラウザベンダー双方にとって不可欠な視点だ。
Web標準の推進派として知られるエンジニアのNolan Lawsonが2026年10月3日、ブログ「Read the Tea Leaves」にて「なぜ多くの開発者はブラウザのネイティブ機能を使わないのか」を論考。歴史的経緯、習慣、ドキュメント格差、そして「自作の楽しさ」という心理的要因を挙げ、プラットフォーム懐疑派の視点を多角的に分析した。
「use the platform(プラットフォームを使え)」——Web標準・パフォーマンス・アクセシビリティの支持者たちが長年訴えてきた主張だ。JavaScriptで自前実装するより、ブラウザが標準で提供するAPIを使った方が、パフォーマンスも使い勝手も優れている、という論理はシンプルに見える。しかし実際には、多くの開発者が説得を必要としている。Lawsonはその理由を複数の観点から整理している。
まず歴史的背景。かつてブラウザはエコシステムの後追いが常態化しており、jQueryはその空白を埋める存在だった。IE6のような古いブラウザが淘汰されるまで待たねばならない時代、自前実装は合理的な選択だった。現在ではほとんどのブラウザがEvergreen化したものの、その慣習は根強く残っている。
次に習慣の問題。npmでReactコンポーネントを探すことに慣れた開発者は、「position: sticky を使えばいい」とは教えてくれないパッケージ検索に頼り続ける。ReactのJSXに慣れた開発者が生のDOM APIを「気持ち悪い」と感じる一方、内部でDOM操作を行うバーチャルリストライブラリは抵抗なく使う、という逆説も指摘している。エコシステム内で専門知識が分業化された結果、プラットフォームAPIは「上手くラップされた形」でしか受け入れられなくなったという分析だ。
ドキュメントの格差も大きい。MDNがWeb文書の定番になる以前、Webプラットフォームの情報はブログやStack Overflow、CSS Tricksに散在し、そのうえ多くのサイトがjQueryやGreenSockといったライブラリを推奨していた。詳細なREADMEや図入りチュートリアルを備えたnpmパッケージと、乾いたMDNページとでは、訴求力に差がある、とLawsonは率直に認める。
さらに深層にあるのが「自作の楽しさ」という心理だ。自分で作ったものは把握しやすく、プラットフォームAPIの細かな挙動を暗記していなくても対処できる。そしてIKEA効果よろしく、一度作ったものを保守し続けたいという動機も生まれる。単なる怠惰や利便性だけでは説明しきれない、この自作志向こそがプラットフォーム懐疑派の核心にあるとLawsonは述べる。