英国でiCloud暗号化に二層格差

原題: Two-tier encryption in the UK

なぜ重要か

国家による暗号化規制が実際にユーザー間の保護格差を生む前例となり、他国への波及リスクが高まる。

英国では2025年2月、Apple社がUK政府からの要請を受けiCloudの最高レベル暗号化機能「Advanced Data Protection」を新規ユーザー向けに無効化した。その結果、同機能を有効にしていたユーザーと、機会を逃したユーザーの間で、同一端末・同一料金でありながら暗号化保護に格差が生じている。英国の「Investigatory Powers Act 2016」に基づく「Technical Capability Notice(TCN)」が法的根拠となっている。

英国在住のAliceとBillは同じiPhoneを使い、同額のiCloudサービスを契約している。しかしAliceは2025年2月以前にAdvanced Data Protection(ADP)を有効化していたため保護が維持され、Billはその機会を逃したため同機能が使えない。この非対称な状況は、英国政府がAppleに対してTCNを発動したことに起因する。

背景は深い。2014年のSnowden/NSA暴露後、Tim CookはAppleにバックドアは存在しないと明言した。2015年のサンバーナーディーノ銃乱射事件では、FBIがAppleに対してiOSのセキュリティ機構を迂回するソフトウェア作成を要求。CookはこれをOpen Letterで拒否し「一度作れば全デバイスを開く万能鍵になる」と強く批判した。FBIは最終的に第三者(Cellebrite とされる)経由でアクセスし、訴訟を取り下げた。

2025年2月7日、Washington Postは英国政府がAppleのiCloud最高暗号化データへのアクセスを命じたと報じた。根拠法は「Investigatory Powers Act 2016」。TCNはアクセスそのものを許可するのではなく、特定の令状が出た際に対応できる技術的「能力」の維持を義務付ける仕組みだ。TCNの発行には司法長官の承認が必要で、受領企業は英国国務長官の許可なくその存在を公開できない守秘義務も課される。

AppleはADPを英国の新規ユーザー向けに無効化することで対応したとみられる。既存ユーザーへの影響は現時点では不明だが、結果として同国内での暗号化保護が有効化時期によって二分された状態が続いている。

出典

macanorak.com — 元記事を読む →