暗号化への包囲網が世界で広がる
原題: Encryption Is Getting Squeezed From All Sides
なぜ重要か
民主主義国家での暗号化規制が連鎖的に広がる中、グローバルなデジタルセキュリティ基盤そのものが揺らぐリスクが高まっている。
カナダが2025年に提案した法案C-22は、暗号化サービスへのバックドア義務付けとデータ保持強化を含む内容で、Signal、Psiphon VPN、Apple、Metaなどが強く反発している。英国・オーストラリア・EU・フランスなど世界各国でも同様の立法が相次いでおり、プライバシー保護サービスの「安全な拠点」となれる国がどこかという問いが浮上している。
カナダ政府が推進する法案C-22は、暗号化サービスに対してバックドアの実装やログ保持の拡大を事実上義務付ける内容を含む。技術企業や市民社会からの激しい批判を受けて一部修正されたものの、根幹は変わっていない。
これに対し、イランの検閲下で数百万人のユーザーを支えるカナダのVPNサービス「Psiphon」は、法案が成立すれば同国から撤退すると表明した。暗号化メッセージアプリのSignalも、オープンソースプロジェクトへの許容できない変更が求められるとしてカナダ市場からの撤退を宣言している。DuckDuckGoとNordVPNもサービス停止を検討すると述べており、AppleとMetaも法案を批判している。
問題の背景には、法執行機関や情報機関が暗号化データへのアクセス拡大を求める長年の動きがある。英国やオーストラリアはすでに企業に暗号化の解除を強制できる広範な監視改革法を導入済みだ。EU、フランス、インド、アイルランド、スペイン、スウェーデン、スイスでも同様の提案が相次いでいる。
トロント大学Citizen Labのシニア研究員Kate Robertsonは、「アクセスを求めることへの視野狭窄が起きている。しかしそうした縦割り思考は、テクノロジーが病院・銀行・国家安全保障機関・警察自身にとっても安全な基盤である必要性を忘れている」と指摘する。
暗号化の専門家やセキュリティエンジニアは数十年にわたり、「安全なバックドアは構築不可能」と繰り返し主張してきた。にもかかわらず各国政府は同じ議論を繰り返している。どの国が「プライバシーの聖域」となれるかという問いは、今後ますます現実的な意味を持つようになる。