AIによるがん治療はまだ遠い——スタートアップが語る必要条件
原題: AI isn’t close to curing cancer. This startup says it knows what it will take.
なぜ重要か
創薬AIの最大のボトルネックである「ヒト組織データ不足」を自動化実験設備で解決しようとする取り組みは、AI創薬分野の実用化スピードを左右する可能性がある。
バイオテックスタートアップのVivodyne(2021年設立)は、AIによる創薬が「ヒト組織データの欠如」という根本的問題を抱えていると指摘する。同社はKhosla Ventures主導の2ラウンドで計8,000万ドル弱を調達し、20種類のヒト組織を自律培養・測定するモジュール型ロボット実験設備「HIVE」を稼働させた。肝細胞では94%、気道組織では96%、骨髄では20種の抗がん剤試験で100%の一致率を達成したと発表している。
Vivodyne CEO兼共同創業者のAndrei Georgescu氏は「現行のAIモデルが学習するのは動物実験データや単細胞・タンパク質レベルのデータであり、生きたヒト組織から得られる因果的な生物学的データが欠けている」と主張する。同氏は「そのまま進めば、AIはマウスのがんを治すだけだ」と述べた。
AI業界の大手トップらも同様の課題を認め始めている。AnthropicのCEO、Dario Amodei氏は最近、AIによるがん治療を謳う主張は「陳腐化しつつある」とし、「実際に機能するのは本当にがんを治すことだ」と指摘した。一方で同氏自身、過去のエッセイでAIによるがん治療の可能性を言及していた経緯もある。OpenAIのSam Altman氏はがん治療をAGI推進の理由として繰り返し挙げ、Google DeepMindのDemis Hassabis氏も「AIが10年以内にあらゆる病気を治せる可能性がある」と述べていた。
しかし実際の進展は限定的だ。AI設計の薬物がヒト臨床試験に進んだ事例は数件にとどまり、最も進んだものでもPhase IIIの段階。AlphaFoldはノーベル賞を受賞した画期的成果だが、実際の新薬創出にはまだ至っていない。AlphaFoldを基盤とするIsomorphic Labsは、当初2025年を予定していた最初の臨床試験を2026年末までに実施する計画だ。同社は「真の創薬には膨大な生化学的特性と相互作用を網羅した高精度な予測モデルが必要」と述べている。
製薬業界では、動物試験を通過した薬物の約90%が臨床試験でヒトへの承認を得られないというデータもあり、動物データへの依存が構造的課題となっている。Vivodyne社のHIVEはこの問題に対応するため、20種類のヒト組織を自律的に培養・投与・モニタリングすることで、より人体に近い生物学的データを生成する。肝細胞では毒性試験において94%の予測精度、気道組織では96%の一致率、骨髄では20種類の抗がん剤試験で100%の一致率を達成したとしている。同社は先週、「世界最大規模」と称するHIVE施設をオープンした。